号泣に悔い無し

「号泣に悔い無し」   POP鈴木

すきすきスウィッチが活動を再開したことに驚いている。のに、もう新たな録音物が出る。しかも2〜3枚いっぺんに。つって驚いている方は多数いらっしゃるんじゃないでしょうか。っていうか、僕が驚いていますよ。はは。だってわずか1年前には想像もしていませんでしたよねえ。そもそも「すきすきスウィッチ」の一員に私がなろうとは夢にも思ってなかったわけですし。ええ。更に言わせてもらえば、鈴木惣一朗さんが佐藤幸雄さんとまた一緒に音楽活動を始めるってのも予想できていませんでしたし。いやもっと言えば佐藤幸雄さんが20年ぶりに音楽活動を再開されるとも思っていなかったわけですからねえ。だからねえ。なんつーか。こう、感慨深いですなあ。

あ、録音ですか? ええ。そりゃあもう、うまくいきましたよ。ものすごく。もう、佐藤さんも終始上機嫌でしたし、惣一朗さんもノリノリでね。ばんばん録りましたわ。ええ。原さんっていう優秀な録音技師の方とね。もう録音装置をほぼ回しっぱなしにして、3人一緒に演奏してね。もちろん佐藤さんは歌いながらですよ。んでバーンって一曲終わって、佐藤さんが「今のどうだったかな?」っつーと惣一朗さんが「もう完璧。」とか、「もう1回やろっか」とか「今のテイクおもしろいから採用」とか、ばんばんジャッジしていって、じゃあ、次これやろう、つって。いやあ、早い早い。惣一朗さん、やっぱすごい。判断が早い。それで、「今の曲にこれを足してみよう」なんつって面白いアイディアばんばん出して。んで無駄が無い。すごいなあと思いましたよねえ。やっぱ長年様々な録音に立ち会ってきた、作ってきた、経験と、音楽に対する愛情なんでしょうなあ。

佐藤さんはね、最初はこの二十数年で進歩した録音環境に面食らっておられて。「おお、こんなこともできるのか!」なんつって浦島太郎っぽかったんですが。もうね、あっという間に順応してね。「ここにこういう音足せるかな」なんつってばんばんアイディア出すようになって。んで惣一朗さんも「それおもしろいねえ。やろうやろう」つって乗って。んで録れたものをその場で聴き直してギャハハって。なんか、中学生が化学クラブかなんかで実験して遊んで喜んでるみたいな感じがしましたなあ。お二人とも少年でね。和気あいあいでね。いやあ、おもしろかった。その、いわゆる30年前の「すきすきスウィッチ」、佐藤さんちに惣一朗さんとか集まって終電まで練習したりしてた、20代のあの頃。って、ああ、こういう感じだったのかあ、って思いましたよ。

あ、僕ですか? ああ、僕はですねえ、そんなお二人をぼーっと眺めてましたよ。っつーのはウソですが。いや、やりましたよ。いろいろ。やらされたといいますか。ええ。まあ、キーボードねえ。あ、あの、私、元来ドラマーなんですよね。あ、ご存知で? え、ご存じない。あ、そうですか。ままま、いいんですけど。弾きましたよキーボード。んでも「ここにもっとなんかキーボードを足してみて。アドリブで」なんて惣一朗さんに急に言われたりしましてね。んでもそんなこと当然私にはできなくてですね。なんだよ使えねえなあ、じゃあオレがやる、みたいになったり。すみませんねえ。なんつって。んじゃあってんでキーボード以外でね。「ここ一緒にかけ声やって」とか惣一朗さんに言われたり。急に佐藤さんに「ここを歌ってみろ」とか。ええ。前述しましたようにお二人ともばんばんアイディア出してくるんで。なんでしょう、いろいろやりましたよ。ま、もちろんドラムもやったんですが、歌、かけ声、口笛ね。口笛は失敗してるのに「面白いから」ってんで録り直させてもらえませんでしたねえ。うーん。あとなんだっけなあ、ナレーションみたいなのとか。ラップ。あ、あと号泣。そう。私の号泣もこのCDには入ってるんですな。

いや、皆さんがお聴きになる前になんか言うとねえ、ネタバレっていうんですか。うーん、ちょっとまずいのかな、とも思うんですが、んでも逆にね、聴く前にお話ししておきたいんです。これについては。

まあ、ある曲なんですが。1番があって2番があって、間奏のところです。16小節くらいなんですけど。佐藤さんから「この部分で年齢をぽん。ぽん。と言ってほしいんだ。『何歳。』『何歳。』って」と指令が下ったわけです。まあ、実験的ですよ。「年齢って、どういう?」と当然聞いたわけですが、「君の好きな年齢を言ってくれればいい」と。でもねえ、好きな年齢、って特に無いじゃないですか。まあでも、わかりましたってんで適当に頭に浮かんだ年齢を叫ぶってのを、何回かライブでもやってたんですよね。んでレコーディングでも割と早い段階でこれは録音済みだったんです。

それで終わった。と油断していたのですが後日、レコーディングのもう最後の方でしたか。「あの部分をもう一度録り直してほしいのだが」と佐藤さんから動議が提出されたわけです。「叫ぶんじゃなくて抑えた感じの方がいい。あともうちょっと意味のある年齢で。」とのことで、あ、あの、意味のある年齢って、なんですか、ってお聞きしてもまあ、大体お答えは想像がつきましたので聞かず。ええ。もうそこらへんはさすがに私も学習しておりますので。んで、わっかりましたと。ちょっと考えましてね。ちゃんとノートに年齢を書き出しましてですね。推敲なんかもしまして。よしこれでいこうと。僕だけ録り直しですから、佐藤さんと惣一朗さんはすぐ傍らのソファーにお二人仲良く座りまして、僕だけマイクの前に立ちましてノートを広げまして。まあそこに書いてあるのは単なる年齢なんですが。

「24歳」「31歳」「47歳」「54歳」…

では回しま〜すって録音技師のハラさん。んで録音。ヘッドフォンには先日録音済みの曲の間奏部分。佐藤さんと惣一朗さんの「あ〜」というコーラスなんかが聴こえてくる。タイミングをはかりまして。抑えた感じで低い声で。自分に言い聞かせながらまず最初の年齢を言いまして。

「24歳。」
これは佐藤幸雄さんに初めて出会った時の僕の年齢なんですよ。よしよし。上手く言えたぞ。次はその当時の佐藤さんの年齢だ。んでタイミングを十分待って言います。
「31歳。」

とその瞬間、なぜか僕は急にグッときちゃったんだな。ああ。その後32歳だか33歳だかになった佐藤さんは僕らの前から一旦姿を消したのではなかったか。このあと言おうとしている今の僕の年齢は、あの頃の佐藤さんより遥か上ではないか。あれから20年以上僕は何をしていたんだっけか。20年以上佐藤さんは何を思って暮らしていたんだろうか。今って本当に一緒にレコーディングをしているんだろうか。これって夢で見た話じゃなかっただろうか。鈴木惣一朗さんまでいるではないか。傍らで佐藤さんは惣一朗さんと仲良く音無しく並んで座っている気配がするではないか。聴こえてくるこの美しいコーラスの声はその2人のものではないか。それからそれから—。
こうやって文字にして考えたわけじゃないんだけど、とにかく、2小節くらいのわずかの間にこういう思いが僕の中を駆け巡りまして。
「47歳。」と言った時、もう僕は号泣していたんだな。ばんばん涙も出た。一度泣き出すともう止まらない。止めなきゃ止めなきゃと必死なのだが止まらない。どうしよう。恥ずかしい。でも止まらない。ああもういいや。次は現在のあなたたちの年齢だ。
「54歳」…

録り終えて、ヘッドフォンをはずすと、しーんとしていた。僕の鼻をすする音だけがしていた。そりゃそうだろう。録音中に年齢を言うだけなのにいきなり泣き出されちゃ意味が分からない。「すみません。録り直しを。」つった私であったが、「いや、このテイクでOK」つったのはお二人である。ええ。だめですよとさすがに抵抗した私であったが、ああ、これはきっと使われるんだなとすぐ諦めた。まあ、実験的ですから。マジの号泣が入っている録音物って世界初かもしれない。と惣一朗さんがおっしゃってました。「フェイクの泣き声なんてのはよくあるけど…これはマジだからなあ」って。

ただ、後日ですが、惣一朗さんはやはり少し迷いが生じたそうであります。僕とかが録音を終え日常に戻ってからも、惣一朗さんは1人最後まで40曲かそこらの音を、愛を込め、聴きやすいように、そして実験的でもあるように、一曲一曲ていねいにひたすら調整してくれていたのでありますが。後日その部分を聴き直して調整していたとき、これ本当にいいのかなあと。聴く人が意味わからないんじゃないかなと。いや、かくいう僕ですらね。実はその部分を今聴くと、ちょっと。ええ? って思っちゃうんですよ。ナニ泣いてんの。気持ち悪っ。って。まあでもね、悔いは無いですよ。泣いちゃったもんは泣いちゃったんだから。んで兄貴たちがそれで行こうって決めたんだから。んでも、運良くこれをお読みくださった方はですね、その部分を聴いたら、あ、と思い出してもらえれば。ちょっとはその、何かになるのではないかと思いまして。

というか、まあ、そんなわけで、この録音物たちには、さまざまな音が歌が愛が悲喜こもごもが詰め込まれておりまして。佐藤さんの何十年とかも詰まっておりまして。実験的でもあるし。惣一朗さんがすごく聴きやすく調整してくださっているし。量がすごいですけど。あの、聴くべき人のお耳元に届けばいいなあ、と願っております。

あれは録音最後の方の日でしたかね、佐藤さんがスタジオでいきなり絶叫しておられましたよ。「あああ、早く人に聴かせたい!!」って。

2013/07/19

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